制限行為能力・意思表示・代理(契約を守る仕組み)
この単元のはじまりの場面
中村翔さんは、みなと不動産でアパートの契約をしました。契約書をよく読まないまま署名しています。あとから、やめられるのかと中村さんは聞きました。木村健一さんは「だれが、どんな理由で困ったのかで決まる」と答えました。佐藤さくらさんは、その分け方を覚えることになりました。
なぜ「取り消せる」という仕組みがあるのか約2分
契約は、当事者が自分の意思で結ぶものです。だから、原則として後から一方だけがやめることはできません。取り消せるのは、法律が決めた場合だけです。
根拠: 民法 96条1項、民法 122条
それでは困る人がいます。自分で判断する力が十分でない人、だまされた人、脅された人、思い違いをした人がそうです。この人たちを守る道具が「取り消し」です。
根拠: 民法 96条1項、民法 5条2項、民法 9条
未成年者が、親に黙って高価な絵画を買いました。この未成年者は後からこの契約を取り消せます。店は売れたと思っていましたが、話は元に戻ります。木村さんは、未成年者のようにその場にいない人を例にするときは、本試験の言い方で説明しました。
根拠: 民法 5条2項
取り消しは「無効」とは違います。無効は初めから効き目がありませんが、取り消しは、取り消すまでは効いています。だから相手から追認(後から有効だと認めること)を求められることもあります。
根拠: 民法 121条、民法 122条
公の秩序や善良の風俗に反する法律行為は、取り消すまでもなく無効です。当事者が納得して合意していても、有効にはなりません。
根拠: 民法 90条
「取り消せる契約は最初から無効」ではありません。取り消したときに、初めから無効だったものとみなされます。
根拠: 民法 121条
意思能力と未成年者約2分
この節でよく出るのは
- ★ 3回営業を許された未成年者は、その営業については大人と同じ力を持…
- ★ 2回成年は18歳からです。18歳未満が未成年者で、18歳になれば…
意思能力とは、自分がしていることを理解できる力のことです。これがなかったときの法律行為は、初めから無効になり、取り消しという手続きも要りません。
根拠: 民法 3条の2
未成年者は、法律行為をするのに法定代理人(親権者など)の同意が要ります。ただし、ただ権利を得るだけ、義務を免れるだけの行為は同意が要りません。もらうだけなら損をしないからです。
根拠: 民法 5条1項
17歳の未成年者が、アパートを借りる契約をしました。家賃を払う義務が生じるので親の同意が要り、同意がなければ取り消せます。これに対し、現金100万円をもらうだけの契約は、権利を得るだけなので同意は要りません。
根拠: 民法 5条1項
同意が要るのは、義務を負う行為です。同意が要らないのは、権利を得るだけ・義務を免れるだけの行為です。
根拠: 民法 5条1項
お小遣いで買い物をした場合です。目的を決めて渡されたお金は、その目的の範囲で自由に使えます。実務では、範囲を超えたら同意が要ると考えられています。
根拠: 民法 5条3項
後見・保佐・補助約2分
成年後見(判断する力が足りない成年を支える制度)の審判の話を、中村翔さんが聞きました。「自分の契約も、後から取り消せるのですか」と、中村さんは尋ねました。中村さんは22歳で、判断する力に問題はありません。木村健一さんは「制限行為能力を理由に取り消せるのは、家庭裁判所の審判を受けた人と、未成年者だけだ」と答えました。
根拠: 民法 7条、民法 11条、民法 15条1項
| 類型 | 審判の要件 | 同意する人 | 同意がないとき |
|---|---|---|---|
| 未成年者 | 未成年であること | 法定代理人 | 取り消せる |
| 成年被後見人 | 能力を欠く常況にある | 同意権はない | 原則すべて取り消せる |
| 被保佐人 | 能力が著しく不十分 | 保佐人 | 取り消せる |
| 被補助人 | 能力が不十分 | 補助人(審判があるとき) | 取り消せる |
根拠: 民法 5条1項、民法 7条、民法 11条、民法 15条1項、民法 13条4項、民法 17条4項
成年被後見人の行為は、原則としてすべて取り消せます。日用品の購入など日常生活に関する行為だけは取り消せません。成年後見人には同意権がないので、実務では、同意をもらっても取り消せると考えられています。
根拠: 民法 9条
被保佐人が保佐人の同意を得なければならない行為は決まっています。借財や保証、不動産など重要な財産に関する行為、相続の承認や放棄、新築や大修繕などです。
根拠: 民法 13条1項、民法 13条1項2号、民法 13条1項3号、民法 13条1項6号、民法 13条1項8号
同意がなくても、本人の利益を害するおそれがなければ、家庭裁判所が同意に代わる許可を出せます。許可をもらえば、もう取り消せません。
根拠: 民法 13条3項
左右の比較被保佐人と被補助人
補助は一段軽い仕組み。同意が要る行為は、審判で決めた一部だけ。
根拠: 民法 13条1項、民法 17条1項、民法 13条4項、民法 17条4項
被保佐人が、保佐人の同意を得ずに自分の土地を第三者に売りました。土地の売却は重要な財産に関する行為なので、この売買を取り消せます。家庭裁判所の許可を得ていれば、取り消せません。
根拠: 民法 13条1項3号、民法 13条4項
覚えるコマ
成年被後見人には同意権がない。未成年者は法定代理人、被保佐人は保佐人。
間違えやすいところ:成年後見人にも同意権があると考えると間違える。同意があっても取り消せる(運用)
制限行為能力者のうち、同意権があるのはだれか? 成年被後見人には同意権がない。未成年者は法定代理人、被保佐人は保佐人。
補助は一段軽い仕組みです。同意が要る行為は、審判で決めた一部の行為だけに限られます。
根拠: 民法 17条1項
だれが取り消せるか、いつまで取り消せるか約2分
取り消せるのは、制限行為能力者(未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人)とその側の人だけです。契約の相手方は取り消せません。相手方は困っていないので、取り消す必要がないからです。
根拠: 民法 120条1項
相手方は、追認するかどうかを答えるよう催告できます。期間は1か月以上で、答えがなければ、追認したものとみなされます。
根拠: 民法 20条1項
被保佐人への催告は少し違います。保佐人の追認を得るよう求め、答えがなければ「取り消した」ものとみなされます。相手方を早く安心させるためです。
根拠: 民法 20条4項
時系列取消権が消えるまでの期間
未成年なら、追認できる時は成人した時。錯誤なら、取消原因を知った時から数える。
根拠: 民法 126条、民法 124条1項、民法 20条1項
未成年者が契約しました。成人した後、相手方が1か月以上の期間を決めて「追認するか」と聞きました。答えなければ、もう取り消せません。
根拠: 民法 20条1項
覚えるコマ
追認できる時から5年、行為の時から20年で時効。相手方は1か月以上で催告。
間違えやすいところ:20年の起算点は「行為の時」、5年の起算点は「追認できる時」。入れ替えると間違える
取消権は、いつまで行使できるか? 追認できる時から5年、行為の時から20年で時効。相手方は1か月以上で催告。
詐術を用いたときは取り消せない。黙っていただけでは、詐術にあたらない。
間違えやすいところ:黙っていただけでも詐術になると考えると間違える(判例)
制限行為能力者がだましていたとき、取り消せるか? 詐術を用いたときは取り消せない。黙っていただけでは、詐術にあたらない。
取消権(契約を取り消せる権利)は、追認できる時から5年、行為の時から20年で消えます。使える期間が決まっています。
根拠: 民法 126条
制限行為能力者が「大人です」とうそをついて契約したら、もう取り消せません。だまされた相手方を守るためです。実務では、黙っていただけではうそをついたことにならないと考えられています。黙っていたうえに、さらに何か言動を加えて信じ込ませたなら、うそをついたことになります。
根拠: 民法 21条
思い違いと、わざとのうそ(錯誤・心裡留保・虚偽表示)約2分
思い違いには2種類あります。言い間違いのように、表示と内心が食い違うものと、判断の前提にした事情(動機)についての思い違いです。どちらも、取引の目的に照らして重要なら取り消せます。
根拠: 民法 95条1項、民法 95条1項1号、民法 95条1項2号
動機の思い違いで取り消せるのは、その事情を「契約の基礎にする」と相手に示していたときだけです。心の中で思っていただけでは取り消せません。
根拠: 民法 95条2項
田中大輔さんが、みなと不動産から「この土地は区画が整っていて、すぐ家を建てられる」と説明されて買いました。その前提は契約書にも書かれ、売主も承知していました。実際には建てられなかったので、田中さんは取り消せます。
根拠: 民法 95条2項
自分に重大な過失があると、原則として取り消せません。ただし、相手がその思い違いを知っていたとき、または重大な過失で知らなかったときは、取り消せます。相手も同じ思い違いをしていたときも、取り消せます。
根拠: 民法 95条3項、民法 95条3項1号、民法 95条3項2号
わざとうそをつく場合も考えます。本当は売る気がないのに売ると言った場合、相手がそれを知っていたか、知ることができたときは、その表示は無効です。相手と示し合わせてうその契約をした場合も、無効です。
根拠: 民法 93条1項、民法 94条1項
無効や取消しは、いつでも第三者に主張できるわけではありません。関わってきた第三者が知らなかったとき(場面によっては過失もないとき)は、無効や取消しをぶつけられません。
根拠: 民法 93条2項、民法 94条2項、民法 95条4項、民法 96条3項
覚えるコマ
重要な錯誤なら取り消せる。重過失があると、原則として取り消せない。
間違えやすいところ:重過失があっても取り消せる場合と、重過失がなければ必ず取り消せる、と考えてしまう
錯誤による意思表示が取り消せるのは、どんなときか? 重要な錯誤なら取り消せる。重過失があると、原則として取り消せない。
第三者を守る言い方が2通りあります。「善意(そのことを知らないこと)の第三者」と「善意でかつ過失がない第三者」です。どちらが重い保護かを区別します。
根拠: 民法 93条2項、民法 95条4項
詐欺と強迫約2分
この節でよく出るのは
- ★ 2回詐欺と強迫の分かれ目は、取消しを第三者に対抗できるかどうかで…
だまされたときと、脅されたときは、取り消せます。ここまでは同じです。違いが出るのは、だました人・脅した人が契約の相手方でないときです。
根拠: 民法 96条1項
第三者がだました場合は、相手方がその事実を知っていたか、知ることができたときに限り、取り消せます。第三者が脅した場合は違います。実務では、相手が知らなくても取り消せると考えられています。
根拠: 民法 96条2項
左右の比較詐欺と強迫の違い
強迫のほうが保護が厚い。契約の自由を奪う行為だから。
根拠: 民法 96条2項、民法 96条3項
田中大輔さんが、北町ホームの小林浩二さんから「この土地は値上がりする」と言われて買いました。うそをついたのが売主である小林さん自身なら、田中さんは取り消せます。別の知人がうそをついたのなら、売主がそのうそを知り得たときに限り、取り消せます。
根拠: 民法 96条2項
覚えるコマ
第三者の詐欺は相手方が知り得たときだけ。強迫は善意無過失でも取り消せる。
間違えやすいところ:強迫も、相手方が知り得たときに限ると考えると間違える。強迫は第三者にも対抗できる
第三者が詐欺をしたときと、強迫をしたときで、取り消せる範囲はどう違うか? 第三者の詐欺は相手方が知り得たときだけ。強迫は善意無過失でも取り消せる。
取消しの前に、その契約から権利を譲り受けた第三者も保護されます。守られるのは、善意でかつ過失がない人です。昔は善意だけの第三者も守られましたが、今の条文は過失のないことまで求めます。
根拠: 民法 96条3項
代理とは約2分
代理人が「本人のためにする」と示して契約すると、その効果は本人に直接及びます。この示し方を顕名といい、示さなければ、代理人が自分のためにしたものとみなされます。
根拠: 民法 99条1項、民法 100条
顕名がなくても、相手が「本人のためだ」と知っていたか、知ることができたときは、本人に効果が及びます。相手が分かっていたのなら、本人を守ってよいという考え方です。
根拠: 民法 100条
山本和子さんは、遠くに住む兄に頼んで、共有している土地の売却をまかせました。兄が「山本和子のために」と言って契約すれば、契約は山本さんと相手の間に成立します。兄が自分の名前で売れば、契約は兄と相手の間のものになります。
根拠: 民法 99条1項
権限の定めがない代理人は、保存行為と、物や権利の性質を変えない範囲の利用・改良だけができます。それ以外は本人の指示が要ります。
根拠: 民法 103条、民法 103条2号
委任による代理人は、本人の許諾があるか、やむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選べません。法定代理人は、自分の責任でいつでも選べます。
根拠: 民法 104条、民法 105条、民法 106条1項
無権代理約2分
この節でよく出るのは
- ★ 2回追認すると、契約の時にさかのぼって効力が生じます。ただし、第…
判定の流れ無権代理人は責任を負うか
無権代理人が行為能力の制限を受けていたときも、責任を負わない。
根拠: 民法 117条1項、民法 117条2項1号、民法 117条2項2号、民法 117条2項3号
相手方は、本人に「追認するか」を催告できます。相当の期間を決めて聞き、答えがなければ追認を拒絶したものとみなされます。
根拠: 民法 114条
追認の前なら、相手方はいつでも取り消せます。ただし、契約の時に代理権がないと知っていた相手方は取り消せません。事情を知っていた人まで守る必要はないからです。
根拠: 民法 115条
追認すると、契約の時にさかのぼって効力が生じます。ただし、第三者の権利を害することはできません。
根拠: 民法 116条
無権代理人は、相手方の選択に従い、履行か損害賠償の責任を負います。ただし、責任を負わない場合が3つあります。相手が代理権のないことを知っていたとき、相手が過失で知らなかったとき、無権代理人が行為能力の制限を受けていたときです。
根拠: 民法 117条1項、民法 117条2項1号、民法 117条2項3号
北町ホームの小林浩二さんが、山本和子さんの代理人と名乗って、田中大輔さんと土地の売買をしました。小林さんに代理権はなく、山本さんは追認しませんでした。田中さんは小林さんに対し、土地を引き渡すか、損害を賠償するかを選べます。
根拠: 民法 117条1項
覚えるコマ
本人が追認しなければ効力を生じない。期間内に確答がなければ拒絶とみなす。
間違えやすいところ:確答がなければ「追認した」と考えると間違える(催告の相手が本人のとき)
無権代理人がした契約は、どうなるか? 本人が追認しなければ効力を生じない。期間内に確答がなければ拒絶とみなす。
表見代理と代理権の濫用約2分
| 場面 | どんなとき | 第三者の要件 | 本人の責任 |
|---|---|---|---|
| 他人に代理権を与えたと示した場合 | 他人に代理権を与えたと第三者に示した | 善意で過失がない | 責任を負う |
| 権限を超えた場合 | 代理人が権限外の行為をした | 代理権があると信じるについて正当な理由がある | 責任を負う |
| 代理権が消えた後 | 代理権が消えた後に代理した | 消えたことを知らなかった(過失があるときを除く) | 責任を負う |
根拠: 民法 109条1項、民法 110条、民法 112条1項、民法 111条1項1号
山本和子さんが小林浩二さんに代理権を与え、それを田中大輔さんに告げました。田中さんは小林さんと契約しました。小林さんに実際の代理権がなくても、田中さんが善意で過失がなければ、山本さんは田中さんに責任を負います。
根拠: 民法 109条1項
代理人が自分や第三者の利益を図る目的でした行為があります。相手がその目的を知っていたか、知ることができたときに限り、無権代理とみなされます。本人の許諾のない自己契約や双方代理も同じです。
根拠: 民法 107条、民法 108条1項
覚えるコマ
109条・110条・112条が表見代理。107条・108条は無権代理とみなす。
間違えやすいところ:実印や印鑑証明があれば110条の「正当な理由」になると考えると間違える(判例)
表見代理が成立するのは、どんなときか? 109条・110条・112条が表見代理。107条・108条は無権代理とみなす。
不在者と失踪宣告約2分
長く行方が分からない人を不在者といいます。家庭裁判所は、利害関係人などの請求で、財産の管理について必要な処分を命じられます。管理人は、権限を超える行為には家庭裁判所の許可が要ります。
根拠: 民法 25条1項、民法 28
生死が7年間分からなければ、家庭裁判所は失踪宣告をできます。戦争や船舶の沈没など、死亡の原因になる危難に遭った人は、危難が去った後1年間です。
根拠: 民法 30条1項、民法 30条2項
宣告を受けた人は、上の期間が満了した時に死亡したものとみなされます。危難失踪の人は、危難が去った時に死亡したものとみなされます。
根拠: 民法 31条
ある人が7年間行方不明になり、失踪宣告を受けました。その財産を相続で受け取った人は、後で本人が生きていたと分かっても、宣告の取消し前に善意でした行為には影響を受けません。ただし、現に利益を受けている分は返します。
根拠: 民法 32条1項、民法 32条2項
覚えるコマ
7年の期間が満了した時(危難失踪は危難が去った時)に死亡とみなす。
間違えやすいところ:宣告の時点で死亡したとみなす、と考えると間違える。みなされるのは、普通失踪は7年の期間が満了した時、危難失踪は危難が去った時
失踪宣告は、いつされ、いつ死亡したとみなされるか? 7年の期間が満了した時(危難失踪は危難が去った時)に死亡とみなす。
失踪宣告は、死亡の時期を決める仕組みです。財産関係を整理して、残された人の生活を安定させるためにあります。
根拠: 民法 30条1項、民法 31条
失踪宣告が取り消されても、善意でした行為の効力は動きません。財産を返す義務も、受け取った全部ではなく、現に利益を受けている限度です。
根拠: 民法 32条1項、民法 32条2項
まとめ
- 判断力が足りない人と、だまされた人・脅された人・思い違いをした人を、取り消しで守る。
- 意思能力を欠いた行為は無効。未成年者の行為は、権利を得るだけなら同意は要らない。
- 後見・保佐・補助は審判で始まる。成年被後見人は原則すべて取り消せ、日用品の購入だけ例外。
- 取り消せるのは制限行為能力者側と、だまされた側だけ。相手方は取り消せない。
- 取消権は、追認できる時から5年、行為の時から20年で消える。
- 錯誤は重要なら取り消せる。動機の錯誤は、契約の基礎だと表示されていたときだけ。
- 第三者の詐欺は相手が知り得たときに限り取り消せる。第三者の強迫は相手が善意でも取り消せる。
- 無権代理は、本人が追認しないと効かない。表見代理では、善意無過失なら本人が責任を負う。失踪宣告は7年、危難失踪は危難が去った後1年。