時効・期間・条件(時間が権利を動かす)
この単元のはじまりの場面
石井正さんの空き地の端を、隣の家が庭の一部として20年以上使い続けています。石井さんは「うちの土地なのだから、返してもらえますよね」とみなと不動産に相談しました。木村健一さんは「長く使い続けた事実を尊重するのが、時効という仕組みなんだ。条件がそろうと、使っていた側のものになることもある」と説明しました。佐藤さくらさんは、その条件を順に確かめることにしました。
なぜ時効という仕組みがあるのか約1分
時効は、長い時間が過ぎると権利が動くという制度です。時間そのものが、権利を生み、また消します。
根拠: 民法 144条
なぜこんな仕組みがあるのでしょう。長く続いた事実は、そのまま認めたほうが世の中が安定します。
根拠: 民法 145条
また、権利を長く使わない人をいつまでも保護すると、相手の立場が不安定になります。証拠も消えてしまいます。
根拠: 民法 166条1項
石井さんの土地を、隣の家の人が自分のものだと思って20年間使い続けました。時効が完成すると、隣の家の人はその土地の所有権を取得します。反対に、山本さんが小林さんにお金を貸して長く取り立てをしないと、山本さんの請求権は消えます。
根拠: 民法 162条1項、民法 166条1項1号
左右の比較取得時効と消滅時効の違い
どちらも、長く続いた事実を尊重する制度。
根拠: 民法 162条1項、民法 162条2項、民法 166条1項1号
取得時効(長く使えば自分のものになる)約2分
占有を始めた時に善意で、過失がなければ、期間は10年で足ります。ここでの善意は、他人の物だと知らなかったことです。
根拠: 民法 162条2項
判定の流れ取得時効は10年か20年か
善意無過失かどうかは、占有を始めた時だけで判断する。
根拠: 民法 162条1項、民法 162条2項、民法 186条1項
隣の家の人が石井さんの土地を自分のものと信じて、落ち度なく使い始めました。10年で隣の家の人は所有権を取得します。他人の物と知っていても、20年使い続ければ取得できます。
根拠: 民法 162条1項、民法 162条2項
善意だったかどうかは、占有を始めた時で判断します。途中で他人の物と気づいても、10年で取得できると考えられています。
根拠: 民法 162条2項
覚えるコマ
原則20年。占有を始めた時に善意無過失なら10年。
間違えやすいところ:途中で悪意になっても、10年の時効取得は完成する。見るのは占有を始めた時だけ
取得時効は、10年と20年のどちらで完成するか? 原則20年。占有を始めた時に善意無過失なら10年。
他人の土地を賃借の意思で継続して用益し、その事実がはっきり表れているときは、土地の賃借権も時効で取得できます。
根拠: 判例 最判昭43.10.8
消滅時効(使わない権利は消える)約3分
山本和子さんは、北町ホームの小林浩二さんに貸した100万円が、返済期日から4年11か月たっても戻らないことに気づきました。「もう5年近いですが、どうなるのでしょう」と山本さんは佐藤さくらさんに聞きました。木村健一さんは「債権は、行使できると知った時から5年で消えるんだ。権利を使わない人まで守り続けると、相手の立場が落ち着かないからね」と説明しました。
根拠: 民法 166条1項1号
債権は、権利を行使できると債権者が知った時から5年、行使しないと時効で消滅します。
根拠: 民法 166条1項1号
知らなかった場合でも、権利を行使できる時から10年で消滅します。こちらは客観的な期間です。
根拠: 民法 166条1項2号
この2つは、どちらか早く完成したほうで消えます。5年のほうが先に来ることが多いです。
根拠: 民法 166条1項
| 場面 | 期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 債権(主観的起算点) | 5年 | 権利を行使できることを知った時 |
| 債権(客観的起算点) | 10年 | 権利を行使できる時 |
| 生命・身体の侵害(債務不履行) | 20年 | 権利を行使できる時 |
| 不法行為(通常) | 3年 | 損害と加害者を知った時 |
| 不法行為(生命・身体の侵害) | 5年 | 損害と加害者を知った時 |
根拠: 民法 166条1項1号、民法 166条1項2号、民法 167、民法 724条1号、民法 724条の2
数字の比べ消滅時効の期間くらべ
債権は5年と10年の早いほうで消える。人の生命・身体の侵害は長くなる。
根拠: 民法 166条1項1号、民法 166条1項2号、民法 167、民法 724条1号、民法 724条の2
山本さんが小林さんに100万円を貸し、返済期日が過ぎました。山本さんが期日の到来を知ってから5年、小林さんが返さないままだと、山本さんの請求権は消滅します。
根拠: 民法 166条1項1号
人の生命や身体を傷つけた損害賠償の請求権は、長く守られます。債務不履行の場合、客観的な期間が10年ではなく20年になります。
根拠: 民法 167
不法行為の場合は、損害と加害者を知った時から3年です。人の生命や身体を害したときは、これが5年に延びます。
根拠: 民法 724条1号、民法 724条の2
小林さんが田中さんの車に衝突し、田中さんがけがをしました。田中さんは小林さんを知ってから5年、賠償を請求できます。車が壊れただけなら3年です。
根拠: 民法 724条1項2号
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知った時から5年、行使できる時から10年で消滅する。
間違えやすいところ:5年と10年の起算点を入れ替えると間違える。人の生命・身体の侵害は客観的起算点が20年
債権は、何年で消滅時効にかかるか? 知った時から5年、行使できる時から10年で消滅する。
ただし、確定した時にまだ返済期日が来ていない債権には、この10年の扱いは使えません。
根拠: 民法 169条2項
援用と、時効の利益の放棄約2分
消滅時効では、援用できる人が広がります。保証人(代わりに払う人)や物上保証人(物を担保に差し出す人)、第三取得者などです。消滅について正当な利益がある人も援用できます。
根拠: 民法 145条
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動かない。当事者が援用しなければ、裁判所は時効で裁判できない。
間違えやすいところ:完成しただけで足りると考えると間違える。援用という手続きが要る
時効が完成すれば、権利は自動的に動くか? 動かない。当事者が援用しなければ、裁判所は時効で裁判できない。
債務者のほか、保証人・物上保証人・第三取得者など正当な利益のある者。
間違えやすいところ:後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の時効を援用できない(判例)
消滅時効を援用できるのは、だれか? 債務者のほか、保証人・物上保証人・第三取得者など正当な利益のある者。
判定の流れ時効を援用できる人
原則は当事者。消滅時効では、正当な利益がある人にも広がる。
根拠: 民法 145条
完成猶予と更新(時計を止める、新しく進める)約3分
返済期日から4年11か月たった日、山本さんがまた事務所に来ました。「あと1か月で5年です。もう取り戻せないのですか」と聞きます。木村健一さんは「時効の時計は止められる。まず催告すれば、そこから6か月は完成しない。その間に裁判を起こして判決が確定すれば、確定した時から時計は新しく進み始めるんだ」と答えました。権利を使う行動に出た人は、眠っていたとは言えないからです。山本さんは、その日のうちに催告を出しました。
根拠: 民法 150条1項、民法 147条2項
権利を使う行動に出ると、時効は完成しにくくなります。時計が止まる「完成猶予」と、新しく進む「更新」の2つです。
根拠: 民法 147条1項、民法 152条1項
裁判上の請求や支払督促などは、その手続きが終わるまで時効を止めます。判決で権利が確定すれば、終了の時から時計が新しく進みます。
根拠: 民法 147条1項1号、民法 147条2項
確定に至らないまま終わったときは、終了の時から6か月を経過するまで時効は完成しません。
根拠: 民法 147条1項
催告は、その時から6か月間、時効の完成を止めます。止まっている間に重ねて催告しても、効果はありません。
根拠: 民法 150条1項、民法 150条2項
| 手続き | 効果 | 数字 |
|---|---|---|
| 裁判上の請求 | 確定すれば時効が新しく進行 | 確定に至らないときは終了から6か月 |
| 仮差押え・仮処分 | 完成猶予 | 終了から6か月 |
| 催告 | 完成猶予 | その時から6か月 |
| 協議をする旨の合意 | 完成猶予 | 合意から1年など |
| 承認 | 更新(新しく進行) | 承認の時から |
根拠: 民法 147条2項、民法 149、民法 150条1項、民法 151条1項1号、民法 152条1項
協議をする旨の合意を書面ですると、合意から1年など、いずれか早い時まで時効が完成しません。電磁的記録でも書面と同じです。
根拠: 民法 151条1項、民法 151条1項1号、民法 151条4項
山本さんは小林さんに返済を求め、催告しました。その時から6か月は時効が完成しません。山本さんがさらに訴えを起こして判決が確定すれば、確定の時から時計が新しく進みます。
根拠: 民法 150条1項、民法 147条2項
時系列催告から判決の確定まで
催告で止まるのは6か月だけ。その間に裁判を起こす。
根拠: 民法 150条1項、民法 147条1項1号、民法 147条2項、民法 166条1項1号
承認があると時効は更新され、その時から新しく進みます。承認には、行為能力の制限や権限は要りません。
根拠: 民法 152条1項、民法 152条2項
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猶予は時計が止まるだけ。更新は時計が新たに進む。
間違えやすいところ:完成猶予と更新を同じ効果と考えると間違える。承認は更新で、行為能力も権限も要らない
完成猶予と更新は、何が違うか? 猶予は時計が止まるだけ。更新は時計が新たに進む。
催告は6か月、書面による協議の合意は1年。
間違えやすいところ:催告で猶予されている間に重ねて催告しても、猶予の効力はない
催告と、書面による協議の合意で、猶予される期間は? 催告は6か月、書面による協議の合意は1年。
完成猶予は時計を止めるだけですが、更新は時計をゼロに戻します。効果が違うので区別します。
根拠: 民法 147条2項、民法 152条1項、民法 153条1項
催告で止まっている間に重ねて催告しても、効果はありません。裁判上の請求など別の手段が要ります。
根拠: 民法 150条2項
裁判上の和解(話し合いで譲り合って解決すること)や調停も、裁判上の請求などと並ぶ事由です。確定判決と同一の効力を持つもので権利が確定したときも、終了の時から時効は新しく進みます。
根拠: 民法 147条1項、民法 147条2項
期間の計算約1分
| 決まり | 内容 |
|---|---|
| 初日 | 日、週、月、年で期間を定めたときは、初日を算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、初日も数える。 |
| 時間で定めた期間 | 時間で期間を定めたときは、即時から起算する。 |
| 週・月・年 | 暦に従って計算する。最後の月に起算日に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。 |
| 末日 | 期間の末日は、その日の終わりをもって満了する。 |
| 休日 | その日に取引をしない慣習がある場合に限り、その翌日に満了する(休日だからといつも翌日に延びるわけではない)。 |
根拠: 民法 140、民法 139、民法 143条1項、民法 143条2項、民法 141、民法 138
4月1日午前10時に「3日間」と定めました。初日の4月1日は数えません。期間は4月2日から始まり、4月4日の終わりに満了します。
根拠: 民法 140、民法 141
期間の末日が日曜日に当たりました。その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は翌日の月曜日に満了します。
根拠: 民法 142
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初日は数えない。応当日がなければ月末。休日は慣習があるときだけ翌日。
間違えやすいところ:末日が日曜日なら必ず翌日に延びる、ではない。取引をしない慣習があるかで決まる
期間の計算で、押さえる3つの決まりは? 初日は数えない。応当日がなければ月末。休日は慣習があるときだけ翌日。
初日は数えません。最後の月に応当する日がなければ、その月の末日が期限になります。休日は、取引をしない慣習があるときだけ翌日です。
根拠: 民法 140、民法 143条2項、民法 142
末日が日曜日なら必ず翌日に延びる、ではありません。取引をしない慣習があるかどうかで決まります。
根拠: 民法 142
条件(なるかどうか分からない出来事)約2分
条件には、成就したら効力が生じる「停止条件」と、成就したら効力が消える「解除条件」があります。
根拠: 民法 127条1項、民法 127条2項
効果を成就した時より前にさかのぼらせたいときは、当事者がその意思を表示します。表示がなければ、成就した時からです。
根拠: 民法 127条3項
石井さんが田中さんに土地を売り、「許可が下りたら売る」と決めました。これが停止条件です。許可が出た時に売買の効力が生じ、当事者が望めば許可前の時点にさかのぼります。
根拠: 民法 127条1項、民法 127条3項
条件が成就するか分からない間も、当事者は相手の利益を害することはできません。
根拠: 民法 128
条件の成就を故意に妨げた人がいると、相手は成就したものとみなせます。不正に成就させた場合は、成就しなかったものとみなせます。
根拠: 民法 130条1項、民法 130条2項
法律行為の時に条件がすでに成就していた場合や、成就しないことが確定していた場合にも、決まりがあります。
根拠: 民法 131条1項、民法 131条2項
不法な条件を付けた法律行為は無効です。できないことを停止条件にした場合も無効になります。
根拠: 民法 132、民法 133条1項
条件が単に債務者(お金を返すなど、義務を負う側)の意思だけにかかるときは、停止条件付法律行為は無効です。買うかどうかを売主が決める契約は成り立たないからです。
根拠: 民法 134
覚えるコマ
妨げれば成就したとみなせる。不正に成就させれば成就しなかったとみなせる。
間違えやすいところ:妨害と不正な成就は、効果が逆。成就した、成就しなかった、を取り違えると間違える
成就を妨げたとき・不正に成就させたとき、相手方はどうできる? 妨げれば成就したとみなせる。不正に成就させれば成就しなかったとみなせる。
条件は当事者が左右できない出来事です。左右できるものを条件にすると、無効になることがあります。
根拠: 民法 132、民法 134
条件成就の妨害と不正な成就は、効果が逆です。妨害は「成就した」、不正な成就は「成就しなかった」とみなします。
根拠: 民法 130条1項、民法 130条2項
期限(必ず来る出来事)約2分
期限は、必ず到来する出来事です。条件とは違い、来るかどうかは問題になりません。
根拠: 民法 127条2項
左右の比較条件と期限の違い
例: 許可が下りたら売る(条件)。1年後に返す(期限)。
根拠: 民法 127条1項、民法 127条2項、民法 135条1項、民法 135条2項
始期(効力が始まる時期)を付けると、期限が来るまで履行を請求できません。終期(効力が終わる時期)を付けると、期限が来た時に効力が消滅します。
根拠: 民法 135条1項、民法 135条2項
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます。支払う側が助かるように考えるのが普通だからです。
根拠: 民法 136条1項
小林さんが山本さんから借りたお金の返済期日を1年後に決めました。期限の利益は小林さんのものです。この利益は小林さんが放棄できますが、山本さんの利益を害することはできません。
根拠: 民法 136条1項、民法 136条2項
債務者が破産手続開始の決定を受けたときなどは、期限の利益を主張できなくなります。
根拠: 民法 137条1号
期限の利益は債務者のものと推定されます。だから、債務者の側が放棄できます。
根拠: 民法 136条1項
期限の利益の放棄は自由ではありません。これによって相手の利益を害することはできません。
根拠: 民法 136条2項
まとめ
- 時効は、長く続いた事実を認めて、権利の取得と消滅を起こす制度です。
- 取得時効は占有開始時に善意無過失なら10年、それ以外は20年です。途中で悪意になっても10年で完成します。
- 消滅時効の債権は、知った時から5年、権利を行使できる時から10年です。
- 生命・身体の侵害は、債務不履行なら20年、不法行為なら損害を知った時から5年です。
- 裁判で確定した権利は10年になりますが、確定時に弁済期が未到来の債権には適用されません。
- 時効は援用して初めて使えます。完成後の承認をすると、援用できなくなります。
- 完成猶予は時計を止め、更新は新しく進めます。催告は6か月、協議の合意は1年です。
- 期間の初日は数えません。条件は成就した時から効力が生じ、期限の利益は債務者のものと推定されます。